昨夜、ムスメが読んでほしいと持ってきたものがあります。
1枚のプリントでしたが
内容を読んだ後、子供達といろいろと話し合うことができました。
どこかで読んだ気がするのですが
思い出せませんね・・・:^^
ちょっと長いのですが、5分くらいお時間のある方
ぜひ一読してみてください(^^)
~「カーテンの向こう側」~
ここはある国の、とある病院の一室である。うす暗い室内には多くの重症患者がベットを並べて横たわっている。
窓がたった1つしかなく、しかもそこは、分厚いカーテンによっていつも閉ざされている。消毒薬のにおいが室内の重苦しさを、一層暗いものにしている。
患者たちは、眠っているのか起きているのか、うつろな目を天井に向け、ただ時が過ぎるのをじっと待っている。
看護婦たちもあまりやってこない。まして医師の回診などめったにない。見舞いの客は今まで1人もやってこない。なんの楽しみもない。
変化のないことがこんなにつらいとは・・・。
その中で唯一の楽しみは、病室の閉ざされた窓に一番近いヤコブが、体をやっとの思いでねじまげながら、カーテンのほんのすき間に顔をつっこんで外の様子を眺め、それをみんなに話してくれることだった。
今日もしんどそうに身を乗り出して、すき間に顔を近づけ
「ほら、向こうの方からいつもの花売りムスメが、バラをかごいっぱいに入れてやってくるよ。とっても可愛い娘だよ。」
と教える。みんなも顔をほころばせながら
「バラの花は何色だい?きれいだろうね」
「今日はどんな服を着ているかね。よくなったら一緒に話をしたいものだ・・・」
などとやりあう。
「ほら、今日は雨が強いから大変だ。でも、子供達が水たまりをピチャピチャやって遊んでいるよ。子供は元気だなぁ。」
「ちっちゃな長靴だから、水が中に入っちゃうのに、あとでお母さんにしかられなきゃいいが・・・」
「わしにも孫が2人いるが、大きくなっただろうな・・・。」
ヤコブが外の様子を話してくれるときだけは、暗い病室に、何か期待と夢が入り込んでくるのであった。
私は数年前から足の骨が溶けていく奇病にとりつかれ、いくつかの病院をたらいまわしにされ、ここに運ばれたのだった。同室の患者たちも、何らかの重い病気にとりつかれた、身寄りのないものばかりである。
ここでも何人かの患者が入って来て、何人かが出て行く。出て行くと言っても退院するのではなく、あの世からのお迎えである。
いつのまにか、私は、ヤコブに継いで2番目に古い患者になってしまった。ここに運ばれてくるものは、ほとんど治る見込みのない病人なのだろう。
重苦しさの中でヤコブの話だけがせめてもの希望であった。
しかし、そのヤコブが眠ってしまうと、どんなに外の様子を知りたくても、どうしようもない。
動けぬ体をジリジリしながら、ヤコブの話を待つしかない。いや、ヤコブだけが外の世界を知っているのがうらやましくもあった。しかし、みんなが行きたがっている窓際のベットは、一番古くからこの病室にいるヤコブの特権だった。
今日は朝から、ヤコブは機嫌よく道を通る人々の様子や木々の変化、みどりのあざやかさなど、面白おかしく話してくれた。みんなもヤコブの話を聞きながら、それぞれ故郷の様子や家族のことを思い浮かべていた。
そのうち、私はなんとなくヤコブがにくらしくなってきた。寝たきりでみんな苦しんでいるのに、ヤコブだけがなぜ外の様子を知る権利が与えられているのか。
みんなだって外の様子を知りたい。みんなだってあこがれている。ベットを変えてほしいと思っているものはたくさんいるのだ。しかし、ヤコブは、ガンとしてその場所をゆずろうとはしない。
あるとき、こんなことがあった。特に重病だったニコルが
「ねえ、ヤコブさん。どうやらおむかえがやってきたようだ。今日一日だけでいいからベットを変えてくれないかね。少しでも外の息吹にふれて、あの世とやらへ旅立ちたいんだが・・・」
しかし、ヤコブはニコルの申し出を無視した。
翌朝、ニコルは冷たくなっていた。病室はいつになく重く沈んだ。
私だって外が見たい。ヤコブのベットへ行きたい。
そうだ、ヤコブが死ねばいい。ヤコブが死ねば、その次に古い私が、そのベットにいけるのだ。
その日から、私は心の中でヤコブの病気が重くなることを密かに願った。みんなと一緒にヤコブの話に笑っているときも
心の奥底ではニコリともしない自分がいた。
その年の冬は、例年になく寒かった。病室もしんしんと冷え込んだ。どうやrあヤコブの様子がおかしい。なんとなくかわいたせきをしている。みんなは、いつものように外の様子を聞きたがった。しかし、今日のヤコブは話たがらなかった。
その晩、ヤコブは苦しい息の下で、やっとの思いで身を乗り出し、しぼりだすように外の様子をみんなに伝えた。
「明日は良い天気だよ。・・・星がいっぱいでている・・・きっと・・・いい日になる・・・」
そこまで言うと、がっくり頭を落とし、そのままひと言もなかった。看護婦がやってきた。ヤコブはすでに息が絶えていた。
みんなが悲しんだ。私もみんなと一緒に悲しい顔をしていた。けれど、どこかで笑っている自分がいた。
これで外の様子をひとりじめできる。みんなに知らせてやるものか。オレひとりだけ楽しむんだ。ニンマリ笑いが
こみあげてくる。
いよいよ窓際のベットに移ることになった。昨晩は気持ちが高まって眠れなかった。看護婦にだきかかえられてカーテンのそばに横になった。今になって眠気がおそってきた。しかし、それにあらがうように、カーテンのすきまをのぞきこんだ。
そこから見える外の景色、これこそ自分が求めているものだった。
期待に胸がうちふるえた。
そこから見えたもの。